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※実際は2段組縦書きです。

『透明の壁』 カンスケ


 透明。
 透明の壁。
 そう、ここには一枚のガラスの壁がある。誰が作ったのかはわからない、ガラスの壁。地面に対して垂直に立てられている。周りは森で、一体何のために立てられたのかはわからない。きっと、どこかの芸術家がひっそりと森の中に作ってみたくなったのだろう。 それはかなり見つけづらい場所で、山の頂上に来て、町を見下ろしたときに、森の中で光っているものを見つけたのがきっかけだ。 それから何かがあるたびにここに来るようになった。悩み事があるとき。考え事があるとき。一人になりたいとき。いつしか、この透明の壁がある場所は、自分の場所になった。

〜七月二十七日〜

 自分のことを話すと、名前は洞爺誠一という。二十六歳。大手の薬品メーカーに勤めている研究員。そして透明の壁を気に入っている。このガラスの壁を作った本人と自分以外、誰もこの壁のことを知らないだろう。 この作者に会ってみたいと思う。会ってこの作品について語ってもらいたい。自分はこの壁の作者のファンの一人であることは間違いないと思う。いまだわからないところは、このガラスに書いてある数式と英語。何度読み返してみてもわからない。 幾つかわかるところがあるものの、肝心な部分の意味がわからない。きっとわからないようにしてあるのだろう、自分がわかったことと言えば、何かの設計図じゃないかと言うこと。薬か何かのようなもの、固有名詞が多すぎてわからないがそんなところだと思う。 職場から割りと近い、車で五分走り、歩いて五分の場所にある。他のメンバーと食事に行かないときは、度々ここに来る習慣がある。草を抜き、折りたたみの椅子を置き、空き缶の灰皿を置き、長い時間眺めるようになった。ここでタバコを吸い、携帯電話をいじる。 何事にも変えがたい一人での幸福の時間。
 その日の昼下がりの時間、自分はいつものようにここに来ていた。 何てことはない、いつもと変わらない日だった。 そして違うことは、来訪者が来ていた。これがどこか大きいドラマに関わった始まりなんだろう。自分にとっては短い話で、でも奥には誰かが戦っているようなそんなドラマがきっと起きてるんだろう。
 七月二十七日の木々に茂る緑の葉は太陽の光を反射し、周りを白く照らす。その中心に、初老の男と小さな女の子が手を繋いで立っていた。
「誰?」
 女の子は僕を確認するなり、そう言った。 それが、有馬ミカとの出会いだった。



 太陽の日差しが突き刺さる。辺り一面は銀色で、木々の緑に反射する白色が目に痛い。自分が透明の壁の場所に来たとき、少女と老人がそこに立っていた。
「誰?」
 少女はそう言った。目を細め、自分を視認する。その瞬間、砂ぼこりが舞っていた。 少女がいた場所には誰もいない。文字通り、掻き消えていた。目の前に何かが高速に迫ってくるの物体があった。
 何が起きている?
 その思考をするだけで精一杯だった。激痛とともに、目の前が暗闇になっていた。自分は反射的に顔を覆う。鈍く、骨が叩かれる音が体の中に響いた。



 両手に力が入る。ぼやけていた目の焦点がおさまり、辺りがはっきりしてくる。どうやら意識がはっきりしたみたいだった。自分がどこにいて、どんな状態かも認識してきた。そう、昼間の出来事は一瞬の事だった。
「そうか……」
 天井には色褪せた蛍光灯が光っている。古びた扇風機の音が静かに響く。少女・有馬ミカに襲われたところ、一緒にいた高宮玄雷と名乗るじいさんの喫茶店に運びこまれていた。自分はソファーの上に横になり、仰向けに倒れている。
「ここは……、そう。喫茶店だ」
 高宮玄雷はグラスに水を注ぎ、自分のもとにやってきた。
「気がつかれましたか?」
「何とか……」
「すいません。あの娘はあの場所を知っているのを先生だけだと思い込んでいたようで……。興奮すると手に負えないほどの乱暴をする娘なんです」
「気にしていませんから、怪我も酷くないようですし、大丈夫ですよ」
 高宮玄雷はひたすら謝り続け、自分は受け流し続けていた 自分は左脇を押さえながら脇腹の痛みをこらえる。怪我の部分に手をあてると熱を感じる、それほどの強打だったのだろう。左目の部分に痛みはない、グラスに注がれている水で確認したが痣にもなっていないようだった。
「最近のお子さんは元気ですね、お孫さんですか?」
「そんな所です。私が親代わりみたいなものですから。歳も離れていますし、孫みたいなものでしょうね」
「ここは、私が大昔に経営していた喫茶店です。今は閉店していますが、昔は流行っていたんですよ」
「そうですか」
 十年以上前はここに住み、喫茶店を経営していた。有馬ミカの母親が亡くなったことをきっかけに、有馬ミカを連れてどこか外国の町に行き、そこでカフェを経営していたらしい。自分はソファーから立ち上がる。時間が時間だ、帰らないといけない。
「帰るの?それだったらあなたに話しておくことがあるわ」
 有馬ミカはカウンターの奥から顔を出した。外見から判断すると高校生くらいだろう、顔に幼さが残る。背も高くなく、金色の長髪だけが一際目立つ。目は綺麗な緑色、日本人ではお目にかかれない。
「私は近いうちに、一週間以内にあなたの会社を襲います。怨恨から来る復讐です。きっと被害者が大勢でます。私達が知り合ったのも何かの縁です。洞爺さんが逃げるなり、警察に通報するなり、好きにしてもらっても構いません」


……続きは『夢見堂。創刊号』にて。