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コピー本 『夢見堂。プチ vol.2』サンプル

表紙サンプル

表紙

漫画・イラストサンプル

サンプル

小説サンプル

※実際は2段組縦書きです。

『花ざかりの庭』 山下レイラ


 都会ではビルの一室という教会もあるそうだが、僕が住み込みでお世話になっている教会はきちんと建物があり庭があった。低い生垣が敷地の周りを囲み、中庭には花々が植えられていた。クロッカス、水仙、鈴蘭、ダリア、百合。雪柳、躑躅(ツツジ)、紫陽花(アジサイ)。他にも椿、山茶花(サザンカ)といった、花の咲く木があった。僕が働き始めた頃よりもずっときれいな庭になったと思うのだが、それは僕が庭係をしているから、そう思いたいだけかもしれない。裏庭にはゆったりとした車庫もあり、牧師様の車の他に、作業用にワゴン車もあった。そのワゴン車はもっぱら僕が使っていた。結婚式のあとには、前庭にテーブルを出して、パーティーもした。そんな時には手伝いの人が来て、教会のキッチンで料理を作った。僕も手伝った。一年以上この教会に居て、料理の腕も上がった。毎週日曜日のミサには百人近い参加者がいた。住んでいるのは四十代の牧師様と十九歳の僕だけだけれど、田舎とは言え、充分にぜいたくで大きな教会と言えただろう。


「みみ@うさぎさん。そろそろしたくはできました?」

 僕が声をかけると、少女はけだるそうに返事をした。

「だからぁ、みみだけでいいってぇ。みみ@うさぎは携帯サイトでの名前なんだからさぁ」

「すみません。それではみみさん。いかがです? 出られますか?」

「したくは、だいたい済んだわぁ。ってぇ、それほど荷物は無いしぃ。キャリーバック一個だからさぁ」

 そう言って、目をそらしてふふっと声だけで笑った。

「じゃあ、牧師様にお伝えしてから、車を玄関に回します。玄関で待っていてください。あ、よければトイレに行く時間ぐらいはありますよ。トイレの鏡が一番大きいでしょ?」

「じゃあ、見てくるぅ」

 左右でまとめた髪と髪につけた造花をフリフリと振りながら、みみさんはトイレに向かった。それを確認してから僕は牧師様の執務室に向かった。夕食のあとのこの時間には、牧師様はだいたいお部屋で書き物をしていらっしゃる。


「お仕事中すみません。そろそろ、みみさんを駅までお送りしてきます」

「ああ、もう八時すぎですか。暗くなるのが遅くなりましたねえ」

「はい。ですが…」

「ええ、まだ十六・七の少女が街に戻るにはもう充分暗いですね」

「あの…もう一晩お泊めするわけには行かないでしょうか」

「それは、できません。たしかに教会は誰にでも扉を開いています。
 でも私は一晩だけと決めているんですよ。自らを助ける意思があるのなら、その一晩で人は道を見出せるはずです。そうでないと、この教会が、ただ怠惰に頼るだけの人々の溜まり場になってしまいますからね」

「はい。申し訳ありません。牧師様のお心はよくわかっているのですが、つい…」

「いいんですよ。あのようないたいけのない少女が、守ってくれる者も無く街を徘徊するのかと思うと、私も胸が痛みます」

「ええ…。
 では行ってまいります。帰りに買い物をしてきますので、少し遅くなるかもしれません」

「また、肥料とかですか? 今度はなにを?」

 牧師様は目を細めて楽しげに僕に聞いた。

「ええ、肥料を少しと…。あと、まだ決めてないんですが…。もし良ければなにか花の咲く木を買わせていただいて、教会の建物の西横に植えようかと」

「ああ、きっときれいでしょうね。西日よけにもなるでしょうし。あなたにまかせますよ」

「ありがとうございます」

 ていねいにお辞儀をして、牧師様のお部屋を出た。牧師様は僕のあこがれの人だ。牧師様のような生き方を僕もしたいと思う。泊まる当ての無い少女達に、牧師様は一夜の宿と食事を無料で提供している。初めは僕が牧師様に、携帯に宿泊を希望するメッセージを書いている少女達の話をした。牧師様が許可を下さって、それから僕が彼女達と何回かメッセージのやりとりをして教会に泊める少女を選ぶようになった。一ヶ月にひとりかふたり、少女達は教会に一晩泊まり、牧師様のお話を聞き、僕に苦しみを吐き出し、また街に戻る。家に戻りなさいと話したりもするが、ほとんど聞いていないだろうと感じる。牧師様がおっしゃるように、自分で自分を救う気が無いのなら、何を言っても無駄なのだろう。


……続きは『夢見堂。プチ vol.2』にて。